一つ見えない空。色は蒼なんだか水色なんだかよくわからなくて、なんだか作ったような色。風は冷たいのに陽射しだけはやたらと強くて春を感じさせる日。
あの子の葬儀の前、仲間達と集まったときはやたらと明るく、今日たまたまいないかのような振る舞いで、ひたすらいじり続けネタにして笑った。いかに私たちが彼を気に掛けているかが伺い知れるほどに。
気付けば相当に年月は経っていたね、と。
お通夜の時には相当な参列者で、いかに彼がみんなから愛されていたかが容易に知れて。
時が経つにつれてなんだか嘘のように思えて、名前を見ても実感は湧かなかった。ただ祭壇に置かれた彼の愛用の楽器を見たときに少し感じ入った。お通夜はそんな感じだった。
告別式での親族からの言葉は堪えるのが大変だった。自分がどう感じるか、そういうのはさしてこのような時はなくて、むしろ当事者の人たちの気持ちの重さが突き刺さって痛い。その瞬間にふと自分に生まれた感情。嗚咽を堪えるのに必死だった。
「親より先に死ぬなんて、最も親不孝だからね」
今まで頭でだけ理解していた事柄が少し色をつけて私の中に刻み込まれた。死に顔を見たときにようやく少し実感が湧いた。面影は少し残るばかりだったけれど。
現場を見てきた。状況が少しは飲み込めるかしら。自分が彼の立場だったら?きっとこうしたんじゃないかしら、と思って付近を歩いた。
仲間達と話す時の彼はまだちゃんと生きているみたいで、ただいつも通り遅刻してきたみたい。でもこれから先どれだけ待ってももう彼は現れないし、彼の音も聴けないんだなぁ。
親分肌でも兄貴肌でもなかったのに面倒見が良かったこと。年上とは思えなかったけれど逆に子供っぽさもなかったこと。何にでも順応してしまうこと。
思い出すほど彼についてはみんなでニコニコと語れる想い出ばかりで。
結局語ってくれた新年の抱負は何一つかなえてくれなくて、嘘つきと思った。文句を言いたかったはずなのに何も浮かぶ余裕はなかった。
もっとライブを見てあげるんだった。写真ももっと撮っておくんだった。
私たちの大好きなあの歌のような日だね、と誰かが思い浮かべた。私は空を見る事を忘れた。でもまた何かにつけて誰かが思い出してくれる。そんな色の日だった。
彼に贈ってあげたい曲はたくさんある。音楽談義、天国で覚悟しとけ。